八尾市ものづくりnet.八尾の防災関連製品製造企業Jパックス株式会社
「地震や津波の被害から逃れ、生き残ることができたのに、なぜ避難所で命を落としてしまうのか」。
Jパックス株式会社代表取締役の水谷氏は、東日本大震災後、手作りのダンボール製の簡易ベッドを運ぶために東北と八尾市を往復するなかで、東日本大震災の避難所でたくさんの被災者が低体温症で亡くなっている現状を目の当たりにした。
また避難所で直接床に寝る雑魚寝生活が続くと、エコノミークラス症候群や、廃用症候群など、2次健康被害の危険性が高まってしまう。この問題を解決する手段の1つとして、段ボールで寝床を作るという発想のもと、断熱性のある段ボール製の簡易ベッド「暖段はこベッド」の開発に着手した。
「暖段はこベッド」の組立に工具は要らず、必要なのはガムテープのみである。段ボール製の枠に24個の段ボール箱(中に強度を上げるための段ボール板を斜めに差し込む)をはめ込み、その上にパーティションにもなる段ボール製のフタをかぶせるというシンプルな作業工程で、約15分で完成する。
「暖段はこベッド」は機能性にも優れており、ベッドを構成する個々の段ボール箱には、季節外れの衣類など避難生活ですぐには使わないものを入れることができるので、スペースを有効に使うことができる。また、段ボールのなかに貴重品を収納することもでき、安心して眠りにつくことができる。
さらに仮設住宅などに移る際にそのまま荷物を入れて引っ越しができる。平面であれば8トンの重さまで耐えることができ、3年以上避難所で活躍している「暖段はこベッド」もあると聞き、耐久性が高いことも特徴である。
欧米では、地震など災害が起こった際には48時間以内に、避難者だけではなく支援者分の簡易ベッドが届く仕組みがつくられている。日本でも48時間以内に「暖段はこベッド」を供給できる仕組みをつくるために、全国段ボール工業組合連合会の力を借りて、全国の段ボールメーカーとのネットワーク作りに取り組んでいる。「暖段はこベッド」は平成24年5月にセッツカートン株式会社(兵庫県伊丹市)と共同で意匠登録を行っているが、賛同が得られた同業者には無償で「暖段はこベッド」の図面を公開し、災害時の供給体制を構築している。
また災害時にスムーズに避難所へ「暖段はこベッド」を供給するためには、避難所を運営する自治体の理解と協力が不可欠となっている。東日本大震災時に前例がないことを理由に「暖段はこベッド」の導入が進まなかった教訓から、各自治体と防災協定を締結することに取り組んでいる。この防災協定は、万が一災害が起きて避難所が開設された場合、長期の避難生活を強いられる人にベッドを供給するという内容を事前に約束しておくものである。
自治体への導入を推進するために、国にも働きかけを行い、避難所における簡易ベッドの重要性を訴求することで、内閣府が制定している防災基本計画にも「簡易ベッドの整備に努める」という文言を加えることに成功した。 平成28年11月時点で、220件の自治体と防災協定を締結している。
災害時に命を守る「暖段はこベッド」を全国に広めるために、代表取締役の水谷氏が中心となり、「暖段はこベッド」の考えに賛同し、供給を担う段ボール業者の開拓を行うほか、防災協定を締結する自治体数を増やすことに取り組んでいく。平成28年4月に発生した熊本での震災についても、地元業者との連携により事前に防災協定を締結していた自治体の避難所にスムーズに「暖段はこベッド」を供給することができた。
今後は、資材が不足する避難所でスムーズに組立を行うためにガムテープ不要で組立ができるベッドや、燃えにくい素材を使ったベッドなど、利用者の声を聞くことで製品の改良を重ねていく。地震や台風の多い日本において、「暖段はこベッド」の重要性は今後も高まるとみられ、災害発生時には「暖段はこベッド」が一人でも多くの命を救うことに期待したい。