八尾市ものづくりnet.八尾のトップシェア/オンリーワン企業山本ビニター株式会社 八尾工場
誘電加熱技術は、高周波やマイクロ波の電界作用によって、木材やプラスチックなどの絶縁体を構成している分子を、互いに衝突、振動、摩擦させることで自己発熱させ、目に見えない力で様々な物を加熱する技術だが、同社は様々な分野で誘電加熱の応用技術を実用化させている。
同社は誘電加熱の持つ、短時間で均一に加熱でき、局部を選択加熱できることや、加熱効率が良く、温度制御が容易であることなどの優れた特性に着目し、木材接着機や木材乾燥機、冷凍食品の解凍装置、PVC溶着機、がん温熱治療装置等の実用化に成功。産業用誘電加熱器市場において40%の国内トップシェアを誇っている。
誘電加熱器市場は、かつて大手企業も参入し、市場には十数社がひしめいていたが、年間100億円のニッチな市場において、大手メーカーが撤退するなど淘汰が進み、現在、産業用誘電加熱機を製造しているメーカーは数社程度となっている。事業継続が難しい業界において同社が生き残れたのは、誰にもできない付加価値のある製品造りを目指し、同分野の開発に特化したからだ。その後、同社には様々な分野から誘電加熱を活用した要望が寄せられ、それらの困難な要望に応え続けることでノウハウを蓄積し、今では世界トップレベルの応用技術の習得に繋がっている。
同社の産業用誘電加熱機は、PVC加工製品をはじめ、建材、繊維、自動車部品、家具、医療用具、食品などおよそ40もの業界で使用されており、使用用途も加熱、乾燥、解凍、殺菌、治療と幅広く多岐にわたる。その中でも同社躍進の契機となったのは、世界で初めて開発されたがんの温熱治療(ハイパーサーミア)装置「サーモトロン-RF8」だ。
この製品は京都大学医学部との共同開発によるもので、8年に及ぶ歳月と25億円もの研究開発費を投じてようやく完成した。サーモトロンの特徴は、熱に弱い体内の癌細胞を43度に温めて壊死させるもので、周囲の正常細胞は40度以下に保つことができる。そのため、他のがん治療法と異なり副作用がほとんどなく、化学療法や放射線療法など様々な他の治療との併用が可能であり、末期がんの治療にも適応が可能という画期的な装置だ。この温熱治療(ハイパーサーミア)装置の開発は、世界的にも脚光を浴び、同社は昭和63年度の科学技術長官賞を受賞した。現在は、国内唯一のメーカーとして、全国の大学病院や国立病院などに累計200台以上の納入実績がある。
国内のトップシェア企業として誘電加熱技術の継承は業界の発展のためにも重要である。製品のほとんどはオーダーメイドであり、技術者が数人単位で一台一台、手作りで製造しており、同社しか作れない特殊な高周波機器も多い。
高周波エネルギーを発振する高周波発振器は、電子管などで構成する大型の立体的な回路で構成されており、組み立て時の擦り合わせ技術が求められ、電子機器のように半導体などの部品を、平面のプリント基板に決められた手順で組み込めば済むということにはならない。コイルの巻き方や据え付けの角度など、職人が五感をフルに働かせて微調整を行う必要がある。同社には、大阪府の技術者表彰制度「なにわの名工」に選ばれた2名がいるが、若手技術者とペアになって行動するなど現場での実践を通して技術および技能を継承している。
また、全社員を対象に創立の精神や経営理念を共有するための研修を行うほか、30代から40代前半の若手の人により高い視点をもってもらうための「将来リーダー制度」を導入しており、次世代の幹部候補育成に努めている。
今後については、海外製品との競合は避けられないが、高品質の日本製(Made in Yao)にこだわり、時代にマッチした新しい装置を生み出していく方針だ。社是は「常に一歩前進」。長年の研究と開発で培った誘電加熱技術のノウハウを武器に、これからも次々に寄せられるユーザーからの難しい要望を断ることなく応え続け、ユーザーと一緒に企業の未来と市場を切り開いていく。