八尾市ものづくりnet.八尾のトップシェア/オンリーワン企業富士電子工業株式会社
我々が普段利用している自動車のエンジン部品は、耐久性や硬度を高めるために熱処理(金属などを加熱・冷却して硬度や性質を変化させる処理)を行うことが一般的である。エンジン部品の中でもクランクシャフトなど形状が複雑な部品については、必要な箇所のみを焼入するなど細かい要望があるが、その要望に対応する焼入法の1つとして高周波焼入が挙げられる。その高周波焼入の機械設備の開発・製造を行っているのが富士電子工業株式会社である。
高周波焼入とは、コイルに電流を流すことで磁力が対象物を通過し、対象物が発熱する「誘導加熱」という現象を用いて熱処理を行う方法であり、①部分的な焼入に対応できる ②焼入の深さをコントロールできる ③表面部分のみ加熱するため省エネになる ④Co2等の有害物質を出さない などのメリットがある。富士電子工業株式会社では、1960年の創業以来、豊富な開発実績により得られた焼入法(通算約800件の特許・実用新案、申請中を含む)を駆使し、顧客の製造環境に応じた方法を提案している。
高周波焼入は、コイルの位置を動かす移動焼入法と、定位置で熱処理するワンショット焼入法に大別されるが、富士電子工業株式会社では、半開放コイルを用いたワンショット焼入のノウハウが豊富である。移動焼入法では「焼きムラ」や「焼き逃げ」を抑制できないのに対し、当社独自の半開放コイルで全体を一気に加熱すれば、①サイクルタイムの大幅短縮による省エネ ②複雑な形状でも均等な焼入を行うことができる。という利点がある。半開放コイルを用いた焼入を行っている同業他社はあるものの、当社の豊富なノウハウを駆使した提案や安定した加工技術が、自動車メーカーや工作機械メーカーから評価されており、特に高い精度が要求されるクランクシャフトやボールネジの製造ラインにおける当社のシェアは80%と高い水準を確保している。
富士電子工業株式会社では、高周波焼入の機械設備の開発・製造だけではなく、顧客の要望に応じて生産ライン全体の設計・提案までを手掛けている。例えば、熱処理の工程を工夫することで後工程の研磨処理の工程を減らすなど、顧客の立場に立った全体最適に繋がるライン設計の提案ができる。このことは、当社がクランクシャフトなど高い精度が要求される部品でトップシェアを得ている要因の1つとなっている。
日系自動車メーカーや工作機械メーカーにおいて生産拠点の海外移転が進む中、海外の自動車メーカーからの引き合いも増えつつあり、ヨーロッパやアメリカなどの同業他社との受注競争は厳しさを増している。そのような環境の中、富士電子工業株式会社では、各国の状況に精通した人材を採用し、今までに16ヵ国に260台以上の機械設備を納入してきたノウハウを活かし、現地の状況を考慮にいれた機械設備の提案活動を行っている。例えば、各国で冷却水の水質が異なるため、実験を重ね、水質の違いを考慮した高周波焼入の機械設備の開発を行っている。これらの活動による海外への納入実績が認められ、2014年には経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」にも選定された。
今後、富士電子工業株式会社では50年を超える製造実績で蓄積してきた暗黙知の継承が課題ではあるが、時間をかけて若い世代へ伝授し、豊富な半開放コイルによるワンショット焼入のノウハウを活かし、生産ラインの全体最適を実現する提案活動を行うことで、縁の下から自動車・工作機械メーカーを支えていく。